神戸地方裁判所尼崎支部 昭和41年(ワ)116号 判決 1969年12月15日
原告
藤内君子
被告
金沢吉雄
ほか一名
主文
被告らは原告に対し、各自、金一九五万円およびこれに対する昭和四一年四月六日以降完済まで年五分の金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮に執行できる。
事実
原告訴訟復代理人は、主文同旨の判決および仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、原告(昭和二〇年一月一五日生)は、高等学校を卒業しており、昭和四〇年四月はじめに就職する予定であつた。
被告金沢は、小型貨物自動車(二屯積ダンプカー、兵四り二六三九)を所有し、その専属運転者として訴外新井福男こと朴福出を雇入れて乗車させ、同車を運転手付で、被告山本福商店こと山本福竜に賃貸していた。
被告山本福竜は、土建請負・運搬一式を業とし、訴外長浜採石会社の採石等運搬業務を一手に引受け、右賃借していた本件小型ダンプカーを、同運搬業務に従事させていた。
二、原告は、昭和四〇年三月二三日午後一時五分頃、西宮市城ケ堀町一八番地先道路上右側を南進中、たまたま前方から北進して来た訴外朴福出運転の前記貨物自動車(以下加害車とも呼ぶ)左前部に衝突させて転倒し、そのため治療約一箇年を要する右下肢挫創の傷害を蒙つた。
右事故は、被告山本のため砕石を満載して運行中であつた運転者朴が前方注視義務を著しく怠つた結果であること明白である。
三、右受傷により原告は次の損害を蒙つた。
(一) 治療費として金四七三、五九七円
(二) 逸失利益の損害として金七八万円
1 原告は、同年四月一日から就職し月給一五、〇〇〇円以上を得る予定であつたが、前記傷害治療のため翌四一年三月末日まで医師の施療を受けていたので就職できず、この一年間の給料一八万円を喪失した。
2 原告は、すくなくとも昭和四五年三月末日までは就職し、給料月額一五、〇〇〇円以上を得る予定であつたにも拘らず、後記後遺症のため就職できず、この四年間の給料総額の現価六〇万円(ホフマン式年利五分の計算による)を喪失した。
(三) 慰藉料として二〇〇万円
原告は未婚の女性であるところ、前記重傷の右下肢に殖皮手術するため、左下肢の皮ふを切取つた関係もあり両下肢殊に右下肢ほぼ全体に極めて著しい醜状(傷痕)を残しているばかりでなく、膝関節運動は僅かに六五度以内、足関節運動も四五度以内においてようやく屈伸できるに止まり、したがつて、正坐はもとより長時間起立を続けることすら不可能な状態である。それで、精神的また肉体苦痛はまことに絶大であり、その慰藉料は二〇〇万円である。
四、よつて原告は、不法行為者の使用主である被告金沢に対し、また前記加害自動車の各保有者である被告両名に対し、(一)前記治療費の残金一七三、五九七円(強制保険金三〇万円控除)、(二)逸失利益の損害七八万円、(三)慰藉料二〇〇万円、合計金二、九五三、五九七円のうち金一九五万円の支払を求める。
と述べ、被告らの答弁事実中、原告の主張に反する部分を争い、なお、
五、被告山本は、昭和四〇年三月二五日原告を見舞つた際、原告に対し、訴外朴福出および被告金沢が負担する本件債務につき、全責任を負う旨を述べて重畳的債務引受をなしたものである。
と述べた。
被告金沢吉雄は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告が主張の日時場所において、砕石を積載し運行していた主張の加害車(運転者訴外朴福出、所有者被告金沢)と衝突したこと、は認めるが、その余の原告主張事実は争う、と述べた。
被告山本福竜訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、
一、原告の主張事実中、本件加害車が被告金沢の所有であり、その運転者が同被告の被用人訴外朴福出であること、同加害車が原告主張の日時場所において砕石を積載運行中、原告に衝突し傷害を負わせたこと、被告山本が土建請負運搬一式を業とするものであり訴外長浜採石会社の採石等運搬業務を一手に引受けていることは、いずれも認める。その余の原告主張事実は争う。
二、被告山本は、訴外長浜採石会社から同社の砕石運搬業務を請負つているため、その一部を被告金沢に下請させたところ、同被告は運転者を雇入れ所有の本件加害車を使用して、下請契約に定められた砕石運送業務に従事していた。したがつて、被告山本は右加害車の保有者ではない。
と述べた。なお、原告主張の債務引受を争つた。〔証拠関係略〕
理由
一、〔証拠略〕を綜合すると、原告(昭和二〇年一月一五日生)は、昭和四〇年三月二三日午後一時五分頃、主張の場所においで、訴外朴福出(被告金沢の被用人)の運転する主張の加害貨物自動車(被告金沢所有)に衝突され、加療一箇年を要する右下肢挫創を蒙つたこと、および右事故は、当時運転免許の停止処分を受けていた無資格運転者訴外朴福出が前方注視義務を充分に尽さなかつた過失により惹起されたものであることが認定できる。
二、原告主張の損害
(一) 治療費
〔証拠略〕を綜合すると、原告は前示受傷のため直ちに兵庫県立西宮病院に入院して施療を受け、昭和四〇年一〇月頃退院したが、その後も通院して施療を受け同年末頃までに同病院に対し医療費用として計金四七三、五九七円の債務を負担し、同額の損害を蒙つたことが認定できる。
(二) 逸失利益
1 〔証拠略〕によると、原告は、昭和三八年三月園田学園高等部を卒業しており、昭和四〇年四月から再び就職して月収一五、〇〇〇円を得ることが可能であつたにも拘らず、本件傷害治療のため昭和四一年三月末日までは全く就職不可能の状態であり、この一年間の収入一八万円を喪失した、ことが認定できる。
2 また、〔証拠略〕を綜合すると、原告は、前示傷害のため、両下肢(特に右下肢)に著しい傷痕を残し常にズボンを着用せねばならず、そのうち膝関節や足関節の屈伸運動にも障害を生じているため、通常の女性として会社銀行等に就職することは全く困難であることが認定できる。しかし、労働能力の全部を喪失したとは未だ認定できず、昭和四一年四月一日以降原告は労働能力の二分の一を喪失しているにすぎない旨推認できるところ、原告の従前の可能月収が前示一五、〇〇〇円である点から見れば、原告は、同日以降主張の四年間に、毎月七、五〇〇円の減収を生じており、この減収総額の昭和四一年四月当時の現価は、年利五分の月毎ホフマン係数四三・六七三九により算出(月収七、五〇〇円、四八箇月分)すると金三二七、五五四円になることが明らかである。
3 それで、原告主張の昭和四五年三月末日までの逸失利益の総額はその主張と異り金五〇七、五五四円である。
(三) 慰藉料
前示認定の被害事実、殊に原告は未婚の女性であるところ、傷痕が著しく常にズボンを着用せねばならず、また膝関節や足関節にも故障がある等の被告があるにも拘らず、証人藤内弘の証言によつて認められる、本件加害者側には一片の誠意もなく、そのため原告側が前示医療費債務支払のため長期間に亘つて苦しんだ等の事情を綜合して考えると、原告が本件受傷により蒙つた肉体的、精神的打撃と苦悩は、まことに甚大なものであつたことが認定できる。したがつて、慰藉料は、主張どおり金二〇〇万円をもつて相当と判定できる。
三、次に被告らの責任であるが、
(一) 被告金沢は、本件加害自動車の所有者である旨自認するところ、〔証拠略〕によれば、同被告は、訴外朴福出を同自動車の運転者として雇入れ、同車を運行させていたこと疑いはないから、その保有者として前示損害を賠償せねばならぬ。
(二) 被告山本は、訴外長浜砕石会社の運搬業務を一手に請負つているため、被告金沢との間に下請契約を結んでいたにすぎない旨を答弁する。しかし、〔証拠略〕を綜合すると、
1 被告金沢は、自動車運送事業について免許を受けていない
2 本件加害車は白ナンバーの自家用車である
3 同車の側面や後部には、大きな字で「長浜砕石」と表示されている
ことが認定でき、この事実と〔証拠略〕を綜合すると、被告金沢は、本件加害車による正規の運送事業を営むことができないので、被告山本の営む砕石運搬業務に同自動車(運転手付)を全面的に提供して運賃収入を得ることを企図しており、他面、被告山本は、右運賃支払義務を負うけれども、同加害車を自己所有車と同様自由に支配して砕石運搬業務に従事させる権能を取得していた、ことが推認できる。〔証拠略〕中、右認定に反する部分は措信できない。したがつて、被告金沢は他の目的のために同自動車を運行することを事実上不可能とされていたのに反し、被告山本は、本件加害車を砕石運搬のため自由に運行する権能を有していたものであるから、争いのない砕石運搬中の本件事故は、被告山本の運行に供する車がその運行によつて惹起したものと解するのが相当である。それで、被告山本もその保有者として、もとより本件損害賠償責任を免れない。
四、よつて、原告から本件加害車の各保有者である被告ら各自に対し、前示認定にかかる損害金のうち治療費残金、逸失利益、慰藉料の一部、合計一九五万円およびこれに対する訴状送達の翌日であること明らかな昭和四一年四月六日以降完済まで民事法定遅延損害金の支払を求める本訴請求を、じ余の判断をするまでもなく正当として認容し、訴訟費用は敗訴の被告らの負担と定め、仮執行を宣言すべく、主文のとおり判決する。
(裁判官 山田義康)